キャッシュレスに関する話題に事欠かない昨今、「◯◯pay」といった新しい決済サービスが次々と登場し、数百億円規模のポイント還元キャンペーンが話題となるなど、メディアでも盛んに取り上げられるようになりました。
QRコード決済を始めとしたキャッシュレス決済が世の中に浸透するにつれ、これまで現金しか使うことができなかった小規模小売店でもキャッシュレス決済が当たり前に行われるようになり、その波はコインランドリーにも押し寄せています。
従来、両替機で両替した硬貨で支払いをするのが当たり前だったコインランドリーでもクレジットカードやQRコード決済をすることができるようになりました。
コインランドリーを運営する各社はキャッシュレス化に力を入れており、例えばエレクトロラックスはQRコード決済を可能にするコインランドリー用システム「スマートセレクタ(SS-500)」を発売し、LINE Pay、楽天ペイ、そしてPayPayなどの利用が可能になりました。
ありとあらゆる場所で、広く浸透し始めたキャッシュレス決済。一体なぜ、ここまで利用が進み始めたのでしょうか?
現金決済で年間8兆円の損失が生まれている
キャッシュレス決済が急速に進んでいる背景にあるのは、現金インフラの維持に多大なコストがかかっていること、そして現金決済を行うことで大きな機会損失を発生させる点が挙げられます。
現在の日本は先進国の中でも飛び抜けて多くの現金が使用されており、ATMの保守管理経費や外食産業の現金取扱人件費だけで、年間8兆円ものロスが生まれているのです。
こうした背景のもと、日本経済産業省は2025年までに決済におけるキャッシュレス比率を40%まで引き上げることを目標にした「キャッシュレス・ビジョン」を打ち出しました。
2017年ごろからジワジワとその波は大きくなり、QR決済サービスを提供する各社のポイント還元キャンペーンに加え、2020年初頭に感染が拡大したコロナウイルスによって、急激に普及が加速しました。
感染対策の一環として、多くの人が触れる現金ではなく、カードやスマートフォンで決済をする人が増えたのです。
そうした流れを汲んで、コインランドリー業界でもQRコード決済が可能な店舗が徐々に増えつつあります。
キャッシュレス決済を導入することでユーザー像が可視化される
キャッシュレス化を導入することで、コインランドリーを利用するユーザー側とオーナー側双方にメリットが生まれます。
ユーザーはキャッシュレス決済を行うことで所定のポイント還元を受けることができますし、オーナーは現金回収コストを大幅に圧縮できるだけでなく、両替機等から現金を盗まれるといった盗難被害を回避することができるようになります。
こうしたコスト削減に加えて、キャッシュレス化によって得られる最も大きな恩恵は、ユーザーのデータを収集できる点にあると言えるでしょう。
コインランドリーにキャッシュレス決済を導入することによって、「誰が」「いつ」「どれくらいの時間」コインランドリーを利用したというデータが残ります。
そうすることによって、曜日や季節ごとの需要を可視化することができ、閑散期や利用が少ない時間帯にポイント還元キャンペーンを行うなど、コインランドリー経営の最適化を目指すことができます。
さらに、ランドリーの稼働状況をシステム上で可視化することによって、来店前に洗濯機や乾燥機が空いているかをユーザーがリアルタイムに確認することができるようになるため、ユーザーの利便性を高めることができます。
コインランドリーもITからDT(データ・テクノロジー)の時代へ
最近は、あらゆる産業でIT化が進められるようになり各工程で効率化が進んでいますが、時代はITからDT(データ・テクノロジー)へと移行し始めています。
DTとは、キャッシュレス決済などを通じて収集したユーザーの情報を元に、ユーザーごとに最適化されたサービスを提供したりキャンペーンを提案することによって、サービスを最適化することです。
ユーザーの嗜好が細分化している昨今において、ユーザーごとに最適化されたサービスを提供することはサービス提供者にとって義務になりつつあり、その意味では、データは経済活動の原動力としての役割を担う存在とも言えます。
キャッシュレス決済によるテータ活用に関して言えば、中国の事例が分かりやすいかもしれません。
爆発的な成長を見せる中国は、今ではイノベーションの震源地とも言われるようになりましたが、そんな中国のイノベーションの起点となったのはキャッシュレス決済でした。
中国では、アリペイとウィーチャットペイの2大キャッシュレス決済が普及したことで、出前サービスやシェア自転車などキャッシュレス決済を伴うサービスが普及しました。
そうしたサービスをユーザーが利用することで、ユーザーに関する情報が集まり、ユーザーが求めているものが可視化されることによって、さらに新たなサービスが生まれ、そのサービスを利用することで、さらにデータが集まり次なるサービスが生まれるという好循環が起きたのです。
21世紀型のビジネスは「ユーザーを理解し、彼らが求めるものを提供」することに尽き、それはコインランドリーはもちろんのこと、ありとあらゆる産業に言えることです。
これまでの決済は、モノとお金を交換する「点」でしかありませんでしたが、これからはキャッシュレス決済を通じて、誰が、どこで、何を、どれくらい購入したのかという「面」を捉えていく必要があります。
そうすることによって、従来は人口動態から割り出したマーケティング予測しかできなかったものが、データを活用して立体的にユーザーを捉え、ユーザーごとの要望に合わせたサービス提供ができるようになるでしょう。
キャッシュレス決済が日本国内でも広く普及し、データテクノロジーを活用した取り組みの下地が完成した今、コインランドリー経営にもデータを活用した新たな取り組みが求められます。
そうすることによって、ユーザーの人物像をより鮮明に捉えることができるようになり、その結果、ユーザーが求めるサービスを提供できるようになるのです。
ついに、コインランドリーにも押し寄せたキャッシュレス化の波。今後、キャッシュレス決済を通じて集まったユーザーのデータを元に、新しいコインランドリー経営の形が見出されるようになるかもしれません。
参考サイト
コインランドリーがスマホ決済対応になる「スマートセレクタ」。エレクトロラックス
【業界初】コインランドリーでもスマホ決済 エレクトロラックス「スマートセレクタ」を発売
キャッシュレス社会の実現に向けた取り組み(みずほ銀行)
キャッシュレス・ビジョン(経済産業省)