1998年、ポータブル音楽デバイス業界に激震が走りました。
当時、ポータブル音楽デバイスで圧倒的な地位を誇り、技術的にはるかに進んでいたソニーのウォークマンが、アップルのiPodに負けてしまったのです。
日本企業が世界で圧倒的なプレゼンスを誇っていた30年前までは、技術によって差別化を図る「機能価値」が崇拝され、高機能かつ多機能の商品ほど良いとされていましたが、それが次第に「デザイン価値」へとシフトし、iPodの登場はそれを物語るものでした。
プロダクトのデザインにこだわる企業のプレゼンスは年々高まってきており、アップルはもちろんのこと、家電業界でもデザインを強みとした企業がユーザーから支持される時代になってきました
エレクトロラックスの洗濯機はデザイン性が重視されており、デザインが気に入ってランドリー経営を始める方も少なくありませんが、それにしても一体なぜ、デザインにこだわりを持つ人が増えてきたのでしょうか。
時代とともにメーカーの技術力の差異が小さくなり、技術力による競争優位性は陳腐化しつつあります。
例えば、洗濯機一つとっても、「服を洗う」という機能自体はメーカーごとに大きな差はありません。
似たり寄ったりの商品で溢れかえる中、プロダクトの優位性を伝える上で、まずはユーザーに受け入れてもらう必要があり、それを可能にしたのがデザインでした。
デザインと恋愛は似ている「まずは容姿から入って、次第に中身を知りたくなる」
どれだけ優れた商品を作ったとしても、お客様に手にとってもらわなければ商品の良さは伝わりません。
商品とユーザーの関係は、男女の恋愛を例にして説明すると分かりやすいかもしれません。
見ず知らずの男女が知り合って、最初に入ってくる情報は互いの容姿です。
容姿をキッカケに会話をはじめ、話しているうちにもっと相手のことを知りたくなり、次に自分のことを知ってもらうことで互いに惹かれていくという過程を踏むのが一般ではないでしょうか。
商品とユーザーの関係も同じです。商品の選択肢が限りなく存在する現代において、商品の良さを知ってもらうために、まず力を入れるべきがデザインなのです。
デザイン家電と呼ばれる商品ほど実は技術に力を入れている
容姿をキッカケに会話が始まっても、中身が伴わない人物とは距離が縮まらないように、家電においてデザインは中身を知ってもらうための入り口にすぎません。
実は、デザイン家電と呼ばれている商品ほど技術に力を入れています。
例えば、掃除機、扇風機、ドライヤーなどすでに成熟しきった市場で、従来品にないスタイリッシュなデザインによって家電市場に旋風を巻き起こしてきたデザイン家電企業は、売上高の17〜18%を商品開発に費やしています。
一般的に、売上高に占める研究開発費の比率は、製造業で約3.4%と言われており、デザイン家電企業が研究開発費に投資する金額が、いかに大きいかが分かります。
近年は、巨額の資金を投じてエンジニアを育成する大学を設立する企業も注目されており、デザインを支える根底に技術を重視している企業が大半なのです。
住空間にフィットするコインランドリーが求められる「優れたデザインとはユーザーの生活に溶け込むこと」
コインランドリー用の洗濯機をはじめ、エレクトロラックスのプロダクトは住空間にマッチするデザインが特徴です。
その秘密はスウェーデンにあります。
スウェーデンの冬季は、日照時間がたったの6時間しかありません。それゆえ、スウェーデン人は自宅で長い時間を過ごすため、在宅中は快適に過ごしたいという思いが人一倍強いことで知られています。
そうした思想のもと、部屋に出しっぱなしでも不快感を伴わない、住空間に溶け込むデザインが徹底して考えられているのです。
住空間に溶け込まないデザインは、知らず知らずのうちにユーザーに心理的負担をかけてしまいます。
例えば、まだ黒電話が使われていた60年代の日本の家庭では、黒電話に手作りの花柄のカバーなどをかける風習がありました。
それは、黒電話のデザインが日本の住空間にマッチしなかったからで、家庭のお母さんたちは違和感を少しでも減らすために、無意識のうちにカバーをかけるなどして自らカスタマイズしていたのでしょう。
選択肢が限られていた時代では、そうしたカスタマイズはユーザーに任せておけば良かったのかもしれませんが、選択肢がいくらでもある現代において、ユーザーが潜在的に何を感じているのかを徹底的に考え抜くことが求められます。
そして、企業が考えに考え抜いた痕跡がデザインとして浮き彫りとなるのです。
コインランドリーは暮らしを豊かにするが、主役は常に「人」でなければならない
日本企業は、職人気質でプロダクトのディテールにこだわり、商品開発も既存商品の改善・アップデートを繰り返すことで知られています。
一方で、近年注目を集める国内外のデザイン家電企業は、従来の日本企業とは異なったスタンスをとっています。
それは「家電は家の中のヒーローではない」という考え方です。
もちろん、企業側からすればプロダクトは非常に大切な存在ですが、ユーザーにとって家電は人生においてそれほど重要なものではありません。
あくまでも、プロダクトは「人がより良く生きるための道具」であり、暮らしの中心にあるのはいつだってユーザーなのです。
デザインに力を入れているデザイン企業の取り組みは、いずれも人間対人間の恋愛に当てはまるものばかりで、結局のところ、デザインとは相手に対する思いやりが表層化したものにすぎないと言えます。
エレクトロラックスが提供するデザイン性の高い洗濯機は、数多く存在する洗濯機の中から「なんだか気になる」というキッカケを作っているにすぎません。
ポップなデザインをキッカケに、私たちのことを知ってもらいたいし、あなたのことも知りたいのです。
【参考サイト】
日経「スマートワーク経営」調査解説
なぜ“汎用技術”iPodはヒットしたのか?
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